晩婚化の影響などで、近年、不妊治療の件数が増えています。国立社会保障・人口問題研究所の「2015年社会保障・人口問題基本調査」によれば、不妊の検査や治療経験がある夫婦は約5.5組に1組。子どもを望む夫婦にとって不妊治療はとても身近なものであることがわかるのではないでしょうか。
しかし、不妊治療には大きな足かせがありました。それは高額な治療費がかかること。例えば、厚生労働省が発表した不妊治療の実態調査(2021年3月)によると、体外受精1回あたりの平均費用は約50万円。体外受精を受けた回数は平均3.7回です。
高額だった理由は、それまで保険が適用されていたのが特定の検査、タイミング法、排卵誘発法など、ごく一部の治療に限られていたこと。体外受精などは保険適用外で、3割負担ではなく10割負担(自費)ですから、高額の費用になってしまっていたのも当然といえます。
こうした不妊治療に対する家計負担が大きな課題となる中、菅義偉首相(当時)は不妊治療の保険適用拡大を少子化政策の目玉として打ち出しました。そして2022年4月、診療報酬が改定されました。
関係学会のガイドラインなどで有効性・安全性が確認されている「人工授精」「体外受精」「顕微授精」などが保険適用の対象になったのです。
保険適用になった治療は自己負担3割で済むことになりました。もちろん「高額療養費制度」も対象です。高額療養費制度は、1カ月の医療費の自己負担額が高額になった場合に一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が払い戻される制度。これにより、年収約370~770万円の世帯であれば、月8万円程度の負担に収まることになったわけです。
ただし、女性の治療開始時点の年齢が43歳未満であることが条件(男性には年齢制限はありません)。子ども1人につき女性が40歳未満なら6回まで、40歳以上43歳未満は3回までという回数の上限がある点には注意が必要です。
また不妊治療の保険適用拡大に伴い、それまで実施されていた特定不妊治療費助成制度は2022年3月で終了しました。ですが、自治体によっては保険適用となっていない先進医療の治療などに対して独自の助成金を設けていることがあるので、必要に応じて確認するとよいでしょう。
また、保険適用の拡大によって、「公的医療保険制度の対象となる手術」に対して手術給付金を支払うタイプの民間医療保険に加入している場合、不妊治療手術を受けると手術給付金を受け取れる可能性もあります。すでに医療保険に加入している方や、これから加入を検討している方は、不妊治療の保障について保険会社に確認しておきましょう。
4月に行われた不妊治療の保険適用拡大は、これから妊活をしようとする方、不妊治療を受けたい方にとって朗報です。経済的な理由で子どもを諦める人が減ることも期待されています。とはいえ、不妊治療の悩みは経済的なことだけではありません。
厚生労働省の調査では、不妊治療と仕事を両立できない(できなかった)と答えた割合は実に34.7%。精神面で負担が大きい、通院回数が多い、体調、体力面で負担が大きいといった理由が上位に挙がってます。
厚生労働省が不妊治療と仕事の両立に関するマニュアル等を公表していますが、企業や周囲による環境の整備、サポート、理解が広まり、不妊治療をより前向きに受けられるようになることが一層望まれています。