「もし親に介護が必要になったら」と、ふと不安になる人もいるのではないでしょうか。親が介護状態になったときに一番の助けになるのが、公的な介護保険制度です。そこで、いざという時に慌てないよう、知っておきたい介護保険の基本についてご紹介します。
介護保険制度の仕組み
自分の親はいつまでも元気だと思いたいものですが、突然介護が必要になることもあります。厚生労働省の「介護保険事業状況報告書(平成30年)」によれば、介護が必要になった原因1位は認知症で18.7%、2位が脳血管疾患(脳卒中)で15.1%、これに「高齢による衰弱」13.8%、「骨折・転倒」12.5%と続いています。
また、高齢になるほど要介護者の発生率は高まり、生命保険文化センターが厚生労働省・総務省のデータを基に作成した資料[k1] によれば、65~69歳の要介護者の割合は2.9%ですが、80~84歳では27.0%、85歳以上では59.3%となっています。そのため、親が高齢になってきたら、介護について意識したほうがよいでしょう。
そして、いざ介護が必要になったときに役立つのが、介護保険の「介護サービス」です。介護保険は40歳になった月から全国民が一生涯加入する制度で、介護サービスは、介護保険制度を利用することで一定の自己負担額で受けられるサービスのことです。
介護保険では、65歳以上の第1号被保険者と40歳~64歳までの第2号被保険者に分けられます。このうち、親世代が対象の第1号被保険者の場合、要介護認定を受けると特定の病気など介護の原因を問わず、介護サービスを利用できます。
介護サービスの内容とは?
介護サービスを受けるには、要介護(要支援)認定が必要になります。そのため、親に介護が必要かもしれないという状況になったら、まず親の住むエリアの「地域包括支援センター」に相談しましょう。すると、要介護度の認定調査員の聞き取りや主治医の意見書の確認などが行われ、要介護度(要支援1~要介護5)が決まります。
利用できる介護サービスは、在宅で居宅介護支援を受ける「在宅サービス」と施設に入居して受ける「施設サービス」に分けられます。
このうち、在宅サービスには①訪問系サービス、②通所系サービス、③短期入所系サービス、④福祉用具の貸与・購入があり、①~③は日常生活の補助や入浴・トイレのお世話、リハビリなどのサービスで、サービスを自宅で受けるのが①、デイサービスなど施設に通って受けるのが②、1~2泊など短期間施設に泊まって受けるのが③です。④は、車いすや特殊ベッドなどの福祉用具を借りたり、住宅改修費を受給できたりします。
一方、施設サービスにもいくつか種類がありますが、特別養護老人ホーム(特養)は原則要介護3以上が対象、介護老人保健施設(老健)は在宅復帰を目指す前提、ケアハウス(軽費老人ホーム)は身寄りがない・低所得などの条件があり、いずれも空きが少なく入居まで待機期間が長めなのが実情です。
民間の老人向け介護施設という選択肢もありますが、公的施設に比べて費用は高くなります
介護にかかるお金はどれぐらい?
介護サービスの利用料は原則1割(所得によっては2~3割)負担です。また、介護度に応じてⅠカ月の利用上限額が決まっているため、介護保険の範囲内であれば青天井にはなりません。
例えば、要支援1の場合は利用上限額が月5万320円。よって、最高でもその1割にあたる月5032円に自己負担額は収まります。最も介護を必要とする要介護5の場合は、利用上限額が月36万2710円で、その1割にあたる月3万6217円に自己負担額が収まることになります。
これだけ見るとそれほど高額と思わないかもしれませんが、介護保険対象外の部分があることには注意が必要です。例えば、訪問介護で使用するおむつやガーゼなどの備品、施設介護での食費や居住費、日常生活費などは対象外です。介護保険の対象となる部分、ならない部分、在宅と施設、どういったサービスを受けるかなどで介護費用は変わるので、一概にいくらかかるとはいえないのです。
参考までに、生命保険文化センターが介護経験者に対して行った調査(生命保険に関する全国実態調査(平成30年度))によると、介護保険の対象や対象外を問わずに毎月かかった介護費用の平均は月7万8000円となっています。また、在宅介護と施設介護に分けると、在宅介護費用の平均は月4万6000円、施設介護は月11万8000円となっています。
「親のため」と介護費用を子どもが出して、自分の生活が苦しくなるケースが見られますが、介護費用は親自身の年金や貯金で賄うのが前提です。介護サービスを上手に組み合わせることで費用を抑えられることもあるので、ケアマネージャー(要介護認定を受けると必ず付く介護支援専門員)に相談しましょう。また、親が元気なうちに、兄弟姉妹も含めた家族間で介護費用について話し合っておくとよいでしょう。
介護離職を考える前にすべきこと
親に介護が必要になり、「いっそ仕事を辞めて介護に専念しようか」と考えることがあるかもしれません。しかし、実際に辞めて介護一色の毎日になると、辞めたことを後悔する人も多いようです。再就職がそう簡単にいくかもわかりません。
国は「介護離職ゼロ」を掲げ、介護休業や介護休暇、残業免除、時間外労働や深夜残業の制限、労働時間の短縮など、さまざまな施策を講じています。介護を理由にした不当な解雇の禁止、上司や同僚などからの嫌がらせの防止なども含め、これらの制度は勤務先がどう言おうと法に基づいて利用できることになっています。困ったことがあれば、厚生労働省の都道府県労働局雇用環境・均等部(室)や自治体の担当に相談してみましょう。
国の施策以外に、自治体が配食、家事援助、緊急一時介護人の派遣など、独自のサービスを行っている場合もあります。介護は長く続くことも多く、自分の経済基盤や社会との接点があることはとても大切です。国や自治体の制度で使える部分はフル活用して、介護と生活の両立を目指しましょう。